EDH初級者向け解説 part 3/3
2021年3月19日 Magic: The Gathering8.ヘイトとは?真の脅威が何かを考える
ヘイトとは俗に言われる言葉で、何らかの行動をしたときに、それぞれの対戦相手からどれだけ狙われるか(実際に妨害されるとかマークされるか)といったことを示す意味で使うことが多い。ズアーを出すと(次のターンに概ね勝ってしまうので)ヘイトが高い、といった感じで使う。
しかし、このヘイトについては多くの勘違いをはらんでいる。
絶対的に危険な要素というのは、即死コンボ。これは危険な状態であると誰でもわかる。いわば、ヘイトはMAXの状態である。
では、ヘイトがとても高い状態とはいったい何だろうか。ここで良くある勘違いは、危険なスペルを使ったからヘイトが高い=対処を優先する必要があるというもの。これはヘイトという言葉で危険度を表すという真の目的を見失っていると言わざるを得ない。
即死コンボの次に危険度が高い状態というのは、勝利に近い状態である。
そのため場にエリシュノーンが出ようが、ウラモグが出ようが死なないのであれば関係なく、手札でタッサの神託者とDemonic Consultationを揃えている人こそが、真に危険度が高いのである。
僕はヘイトという言葉は基本的には使わない。見える脅威だけに点数をつけて妨害のやり取りをすることは勝利に直結しないから。手札でこっそりとコンボを揃えてリソースを温存する人も同じように危険なわけだが、これは相手の手札が分からないため正確な判断が出来ないし、具体的に危険である根拠がない人に対してヘイトという言葉を使うこともおかしな話。ヘイトという概念は分からない手札という要素を置き去りにして、見えている要素だけで分かっているフリをしている。そのため、EDHに対して理解のない人ほど、戦場に出た脅威だけに気を取られてその対処を優先して、漁夫の利をとられる。具体的な例を出そう。
プレイヤーA:タッサの神託者とDemonic Consultationがあり、土地から3マナ出る状態
プレイヤーB:鏡割りのキキジキと士気溢れる徴集兵があり、土地3枚から太陽の指輪を出した。
この時に共に同じ枚数の手札があるとして、ボードだけ見ると、
プレイヤーA:土地3枚
プレイヤーB:土地3枚と太陽の指輪
こうなると、盤面だけ見ればプレイヤーBの方が“ヘイトは高い”
しかし勝利に近いのはプレイヤーA。プレイヤーBは太陽の指輪込みでもコンボに必要なマナに届いていない。
だが、多くのプレイヤーは、勘違いをして太陽の指輪を壊す。そしてプレイヤーBの勝利の目はつぶれ、プレイヤーAの勝利はより一層近づく。
この時に手札にコンボがあるかどうかは分からないし、相手のデッキにどういうコンボが入っているかも分からないわけだが、固有色という条件がある以上、ある程度推測は出来るのである。
プレイヤーA(青黒):土地3枚
プレイヤーB(赤緑):土地3枚、太陽の指輪
ここまでは公開情報なので、推測しなければならない。
「プレイヤーAはタッサの神託者+デモコンが使えるのでコンボするには十分なマナがある状態。何もないように見せかけてターン終了時に吸血の教示者でコンボを揃えられるかもしれない」
「プレイヤーBは赤緑なのでコンボは重く、まだ決まらない。しばらく放っておくことが出来る」
この思考が出来るようになって、初めて妨害の適切な矛先を判断できる。そのためには、多くのデッキの知識が必要だし、実戦はもっと複雑な状況なのでかなりハードルが高い。
また、自分のプレイングを最適にしても、別の対戦相手が不適切なプレイングをすれば無意味である。そのため勝つためにここで言えることは、逆に相手の勘違いやミスプレイは織り込むことも考慮される。
・手札でこっそりそろえる軽いコンボを使う
・勝てないのに中途半端に強いカードは使わない
これは自然と勝ちやすい構築になる。相手のミスプレイで負けになるなど馬鹿げているが、構築次第では相手のミスプレイで勝利のチャンスを上げることができるのだ。
ちなみに、話はここで終わりではない。
こう書くと「やっぱり青黒はすぐにコンボをするから危ない。徹底的につぶせ」と思うかもしれないが、それもまた勘違いである。
黒は確かにチューターに優れているが、実際のところ2枚コンボを揃えるのは結構難しい。なかなか揃わない。特に純粋な青黒だと、1マナ以下のマナ加速が足りないことから最初のチューターで魔力の墓所を持ってきたりするのでなおさら。これが青黒緑になると話はだいぶ変わってきて、極楽鳥などの1マナ加速が充実して、タッサの神託者にアクセスできる緑のチューターが増えるので大分揃いやすくなる。それでもやっぱり2枚コンボは難しいのだが。
そのため、盲目的に青黒を狙っても本当に何もできないかもしれないし、相手を責めすぎると、本来そのプレイヤーが他のコンボのために温存しておいた意志の力などを吐かせることになる=別のプレイヤーのコンボチャンスを上げてしまうことになりかねない。
実はアーティファクト破壊などの能動的な妨害の欠点でもあって、相手の手札が見えない以上、結果的にどこに妨害を入れれば正解だったのかは後からでないと分からない。「自然の要求で太陽の指輪を壊す」という単純なプレイングが、正しいか間違っているかは自然の要求を唱えた時には分からない。そのため、妨害カードは真の脅威まで可能なかぎり温存というのはプレイングの指針としてはアリなのである。「即死コンボまで妨害は温存」これで大外れを引くことはない。これは冒頭で述べた妨害を使うと損ということにも通じる。
だからと言って自然の要求に関していれば、温存してしまうと即死コンボの妨害には使いにくい(タッサの神託者やむかつきには効かない)ので、手遅れとなって使い時を逸してしまう。だから自分の場合、ギリギリまで引っ張って使える妨害以外の妨害カードは可能な限り減らして、潜在的なプレイングミスを減らしている。ここまで行くと拘りの領域になってしまうのだが、「ヘイトが高いから妨害する」ということが如何に無意味であるかは理解することが大事。
逆に自分が妨害をされた場合に、私怨で妨害をやり返すというのも、オススメ出来ない。基本的には妨害の打ち合いは足の引っ張り合いなので、使う側と使われた側が損をする。例えば対戦相手Aが自分の太陽の指輪を破壊すると、カードのやり取りはこうなる。
自分:太陽の指輪 -1
対戦相手A:除去 -1
対戦相手B:±0
対戦相手C:±0
ここから仕返しで自分が対戦相手Aの太陽の指輪を破壊すると
自分:太陽の指輪、除去 -2
対戦相手A:除去、太陽の指輪 -2
対戦相手B:±0
対戦相手C:±0
やり返す前よりも更に自分のディスアドが悪化する。よほど、対戦相手Aと自分が抜きんで強いのでない限り、やってはいけない。仮に対戦相手A一人が抜きんでて展開しており、自分が並みの展開だった場合は、尚更、手を出してはいけない。自分の損失を少なくするには何もないフリをして静かに待ち、対戦相手BかCが妨害を使うのを待つべき。口では「絶対に許さん!徹底的にマークする」と言っても、自分の妨害カードは温存してやり返さない方が得である。
9.アタックは難しい
上記のヘイトにも関連することだが、攻撃対象を選ぶことはとても難しい。まず、コンボよりも先に殴り倒すというのは不可能で、多少の妨害を絡めたとしても三人のコンボを抑えきることは難しいばかりか、殴られてライフが落ち込んだプレイヤーは自分の延命のためにチューターを使ってでもアタッカーの処理をするので、継続して殴り続けることはより難しくなる。盤面で一番勝っている人≠勝利に近い人、というのは先の話の通り。そのため展開している人を殴るというのは正解ではない。
また、黒いデッキはライフをリソースに悪さをするので、ライフを削ることで手詰まりに追い込めるが、だからと言って黒から優先的に殴るというのも正解ではない。もちろん、自分の勝利は二の次で、黒いデッキに絶対勝たせたくないというのであれば話は別だが…
EDHの醍醐味の一つは1-3ターン目の早い段階での即死コンボ。しかし昨今のEDH環境は、ピッチカウンターの充実と敵対工作員などのゲームを遅らせる生物が多用されることから、ゲームが長引くことは良くある。そのため、魔力の墓所、古の墳墓などのライフを使って加速するカードは、ゲーム中盤くらいに地味に刺さってくる。そこにアタックを少し絡めるだけで、守らないといけないくらいにはライフが減る。EDHの初期ライフは40点あり、多くの記事では「ライフは多いから削り切れない」と解説されているが、一昔前ならともかく、今は異なる。そもそも三人全員に殴られれば、理論上60点はないと足りていないので、ゲーム展開によっては、初期ライフは少ないともいえる。もちろん、タッサの神託者で早々にゲームが終了してしまうことがあるが、経験的にライフが問題になるゲームは、しばしば存在する。
ライフが減った時に困るのは、防御的な行動をとらないといけなくなること、すなわちコンボが遠のくということ。
もしも、ライフが無限にあれば、場に出て仕事済みの森林の怒声吠えなど無視である。だが、ライフが10点しかなかったら?焦って通る見込みの少ないコンボを仕掛けるか、悪魔の教示者で除去を持ってきて処理しないといけない。
ある程度ダメージが累積することが前提だが、アタックの目的の一つはそのプレイヤーのコンボを遅らせる可能性があること。攻撃対象に選ぶべきは、勝利に最も近い人である。ここまでは単純な話だが、アタックはある特定の1ターンだけの考察ではなく、今後数ターンに渡って計画的に行わないといけない行動である。だからもっと複雑になる。難しい。
・展開してマナが沢山伸びた緑単
・3マナくらいしかない青黒
どちらから叩くのかは、これだけの情報では語れない。緑単は放っておけば手に負えないボードと手札になって、そのまま押し切ってしまうかもしれないが、誰かがリセットなりピンポイントで妨害をすることで手詰まりになる可能性が高い。そうなると2-3ターン後には手札から軽いコンボを叩きつける青黒こそが、真に勝利に近い人となるが、先に青黒デッキから殴り始めると、本来緑単に使うはずだった除去を自分に使われてしまうかもしれない(そして緑単が盤石となってしまうかもしれない)。これは色やこれまでの展開から相手のデッキ構造やコンボへの道筋、現在の手札を予測しながら戦わないといけないため、かなりの経験と勘が必要で初心者向けではないし、予測できる範囲にも限界があるので、決め打ちの運ゲーになりがち。
個人的に思うこととして、常に及第点以上を取るための無難な選択肢は、全員を均等に殴る意志をアピールすること。先の展開は見えない手札や引きに影響されて完全に予測することは不可能なので、無難な行動でお茶を濁す。あまり誰かに偏ってアタックをするとその人から除去を引き出すことになるが、対戦相手に順番に殴れば、まあ1-2回くらいならいいかと見逃してもらいやすい。除去は出来る限り温存したいというのは、勝ちたいプレイヤーには共通の心理であり、そこに乗っかるのである。
色々話した上で言うのも変な話だが、攻撃先に関しては明確な推奨や根拠もないので、正直な話、サイコロで決めても良いと思う。それくらい難しいというか決められないし、特定の誰かを追い詰めすぎない方が良い。
10.最後に
EDHではデッキによる動かし方、勝利への近さなどが、多様すぎる。デッキリストだけでは到底理解できないし、妨害の刺しどころなんてものは本当に難しい。毎回すぐに即死コンボを決めているように見えるデッキでも、いざ自分で動かしてみると案外揃わなかったりもする。EDHというゲームはデッキ構築の多様性だけでなく、多人数特有の戦術や駆け引きも面白く、とにかく飽きさせない。強いカードを使えば良いという単純な思考でもないので、あえて相手に狙われないように強さを抑えたカードを使うという点も他のフォーマットにはない特徴で奥深い。
現状自分は
・デッキの完成度
・多人数戦特有の妨害のやり取り
・妨害のやり取りを意識したカードの選定
・(自分を含めて)プレイヤーは盤面に注視しがち
といったところに重きを置いているが、別の点を重視しても良い。
今回は取りあげていないが、デッキの安定性も議論の対象となる。4人対戦ならば勝率25%以上が目標となるので、逆に言えば7割くらいは負けてもいい。実は1:1のフォーマットよりも低い目標となる。下手に安定度を上げるよりも、不安定でも噛み合ったときの破壊力が圧倒的に強い構築の方が、押し切れる可能性もある。かみ合わなかったときは捨てるという覚悟で…
また結果的に無駄なカードが増えるとしても手の込んだ戦術もありかもしれない。例えばタッサの神託者とDemonic Consultationのコンボは、普通カードの対処のしやすさから、タッサの神託者を唱えて場に出た後、能力の誘発に対応して、Demonic Consultationを唱える。もしもこれを、Demonic Consultationから唱えたら?苦し紛れのサーチか、実はコンボかは相手にとっては判断できない。続くタッサの神託者を打ち消せばよいと油断してDemonic Consultationを通した相手に対して、ライブラリーを全部飛ばした後で魂の洞窟セットからタッサの神託者はカウンターを疑似的に回避できる可能性がある。戦術に関しては奇襲性が高いというのは、それだけで多人数からの妨害を受けにくくなるので、ネタが割れない限り有能。結局展開が必須ではなくて手札でコンボを揃えるデッキは、潜在的に奇襲を意識しているわけだし。
勝利を目的として記事を書いてみたが、EDHの戦術についてはまだまだ発展途上なので自分の考察に対する否定的な意見も出てくるだろう。少しパワーが落ちたデッキでも、相対的に妨害を受けないことによるアドバンテージで巻き返せるチャンスがあり、実際無視され続けた“少し弱い”デッキが勝つこともある。最低限の骨格さえ間違ってなければ、何もできずに終わることは少ないはずである。その最低限の参考にしてもらうことがこの文章の狙いであり、実際に誰かの参考になれば幸いである。
というわけで今回の話はおしまい。かなりの長文となったが、最後まで読んでくださった方、お疲れ様でした。意見などあればコメントにお願いします。
ヘイトとは俗に言われる言葉で、何らかの行動をしたときに、それぞれの対戦相手からどれだけ狙われるか(実際に妨害されるとかマークされるか)といったことを示す意味で使うことが多い。ズアーを出すと(次のターンに概ね勝ってしまうので)ヘイトが高い、といった感じで使う。
しかし、このヘイトについては多くの勘違いをはらんでいる。
絶対的に危険な要素というのは、即死コンボ。これは危険な状態であると誰でもわかる。いわば、ヘイトはMAXの状態である。
では、ヘイトがとても高い状態とはいったい何だろうか。ここで良くある勘違いは、危険なスペルを使ったからヘイトが高い=対処を優先する必要があるというもの。これはヘイトという言葉で危険度を表すという真の目的を見失っていると言わざるを得ない。
即死コンボの次に危険度が高い状態というのは、勝利に近い状態である。
そのため場にエリシュノーンが出ようが、ウラモグが出ようが死なないのであれば関係なく、手札でタッサの神託者とDemonic Consultationを揃えている人こそが、真に危険度が高いのである。
僕はヘイトという言葉は基本的には使わない。見える脅威だけに点数をつけて妨害のやり取りをすることは勝利に直結しないから。手札でこっそりとコンボを揃えてリソースを温存する人も同じように危険なわけだが、これは相手の手札が分からないため正確な判断が出来ないし、具体的に危険である根拠がない人に対してヘイトという言葉を使うこともおかしな話。ヘイトという概念は分からない手札という要素を置き去りにして、見えている要素だけで分かっているフリをしている。そのため、EDHに対して理解のない人ほど、戦場に出た脅威だけに気を取られてその対処を優先して、漁夫の利をとられる。具体的な例を出そう。
プレイヤーA:タッサの神託者とDemonic Consultationがあり、土地から3マナ出る状態
プレイヤーB:鏡割りのキキジキと士気溢れる徴集兵があり、土地3枚から太陽の指輪を出した。
この時に共に同じ枚数の手札があるとして、ボードだけ見ると、
プレイヤーA:土地3枚
プレイヤーB:土地3枚と太陽の指輪
こうなると、盤面だけ見ればプレイヤーBの方が“ヘイトは高い”
しかし勝利に近いのはプレイヤーA。プレイヤーBは太陽の指輪込みでもコンボに必要なマナに届いていない。
だが、多くのプレイヤーは、勘違いをして太陽の指輪を壊す。そしてプレイヤーBの勝利の目はつぶれ、プレイヤーAの勝利はより一層近づく。
この時に手札にコンボがあるかどうかは分からないし、相手のデッキにどういうコンボが入っているかも分からないわけだが、固有色という条件がある以上、ある程度推測は出来るのである。
プレイヤーA(青黒):土地3枚
プレイヤーB(赤緑):土地3枚、太陽の指輪
ここまでは公開情報なので、推測しなければならない。
「プレイヤーAはタッサの神託者+デモコンが使えるのでコンボするには十分なマナがある状態。何もないように見せかけてターン終了時に吸血の教示者でコンボを揃えられるかもしれない」
「プレイヤーBは赤緑なのでコンボは重く、まだ決まらない。しばらく放っておくことが出来る」
この思考が出来るようになって、初めて妨害の適切な矛先を判断できる。そのためには、多くのデッキの知識が必要だし、実戦はもっと複雑な状況なのでかなりハードルが高い。
また、自分のプレイングを最適にしても、別の対戦相手が不適切なプレイングをすれば無意味である。そのため勝つためにここで言えることは、逆に相手の勘違いやミスプレイは織り込むことも考慮される。
・手札でこっそりそろえる軽いコンボを使う
・勝てないのに中途半端に強いカードは使わない
これは自然と勝ちやすい構築になる。相手のミスプレイで負けになるなど馬鹿げているが、構築次第では相手のミスプレイで勝利のチャンスを上げることができるのだ。
ちなみに、話はここで終わりではない。
こう書くと「やっぱり青黒はすぐにコンボをするから危ない。徹底的につぶせ」と思うかもしれないが、それもまた勘違いである。
黒は確かにチューターに優れているが、実際のところ2枚コンボを揃えるのは結構難しい。なかなか揃わない。特に純粋な青黒だと、1マナ以下のマナ加速が足りないことから最初のチューターで魔力の墓所を持ってきたりするのでなおさら。これが青黒緑になると話はだいぶ変わってきて、極楽鳥などの1マナ加速が充実して、タッサの神託者にアクセスできる緑のチューターが増えるので大分揃いやすくなる。それでもやっぱり2枚コンボは難しいのだが。
そのため、盲目的に青黒を狙っても本当に何もできないかもしれないし、相手を責めすぎると、本来そのプレイヤーが他のコンボのために温存しておいた意志の力などを吐かせることになる=別のプレイヤーのコンボチャンスを上げてしまうことになりかねない。
実はアーティファクト破壊などの能動的な妨害の欠点でもあって、相手の手札が見えない以上、結果的にどこに妨害を入れれば正解だったのかは後からでないと分からない。「自然の要求で太陽の指輪を壊す」という単純なプレイングが、正しいか間違っているかは自然の要求を唱えた時には分からない。そのため、妨害カードは真の脅威まで可能なかぎり温存というのはプレイングの指針としてはアリなのである。「即死コンボまで妨害は温存」これで大外れを引くことはない。これは冒頭で述べた妨害を使うと損ということにも通じる。
だからと言って自然の要求に関していれば、温存してしまうと即死コンボの妨害には使いにくい(タッサの神託者やむかつきには効かない)ので、手遅れとなって使い時を逸してしまう。だから自分の場合、ギリギリまで引っ張って使える妨害以外の妨害カードは可能な限り減らして、潜在的なプレイングミスを減らしている。ここまで行くと拘りの領域になってしまうのだが、「ヘイトが高いから妨害する」ということが如何に無意味であるかは理解することが大事。
逆に自分が妨害をされた場合に、私怨で妨害をやり返すというのも、オススメ出来ない。基本的には妨害の打ち合いは足の引っ張り合いなので、使う側と使われた側が損をする。例えば対戦相手Aが自分の太陽の指輪を破壊すると、カードのやり取りはこうなる。
自分:太陽の指輪 -1
対戦相手A:除去 -1
対戦相手B:±0
対戦相手C:±0
ここから仕返しで自分が対戦相手Aの太陽の指輪を破壊すると
自分:太陽の指輪、除去 -2
対戦相手A:除去、太陽の指輪 -2
対戦相手B:±0
対戦相手C:±0
やり返す前よりも更に自分のディスアドが悪化する。よほど、対戦相手Aと自分が抜きんで強いのでない限り、やってはいけない。仮に対戦相手A一人が抜きんでて展開しており、自分が並みの展開だった場合は、尚更、手を出してはいけない。自分の損失を少なくするには何もないフリをして静かに待ち、対戦相手BかCが妨害を使うのを待つべき。口では「絶対に許さん!徹底的にマークする」と言っても、自分の妨害カードは温存してやり返さない方が得である。
9.アタックは難しい
上記のヘイトにも関連することだが、攻撃対象を選ぶことはとても難しい。まず、コンボよりも先に殴り倒すというのは不可能で、多少の妨害を絡めたとしても三人のコンボを抑えきることは難しいばかりか、殴られてライフが落ち込んだプレイヤーは自分の延命のためにチューターを使ってでもアタッカーの処理をするので、継続して殴り続けることはより難しくなる。盤面で一番勝っている人≠勝利に近い人、というのは先の話の通り。そのため展開している人を殴るというのは正解ではない。
また、黒いデッキはライフをリソースに悪さをするので、ライフを削ることで手詰まりに追い込めるが、だからと言って黒から優先的に殴るというのも正解ではない。もちろん、自分の勝利は二の次で、黒いデッキに絶対勝たせたくないというのであれば話は別だが…
EDHの醍醐味の一つは1-3ターン目の早い段階での即死コンボ。しかし昨今のEDH環境は、ピッチカウンターの充実と敵対工作員などのゲームを遅らせる生物が多用されることから、ゲームが長引くことは良くある。そのため、魔力の墓所、古の墳墓などのライフを使って加速するカードは、ゲーム中盤くらいに地味に刺さってくる。そこにアタックを少し絡めるだけで、守らないといけないくらいにはライフが減る。EDHの初期ライフは40点あり、多くの記事では「ライフは多いから削り切れない」と解説されているが、一昔前ならともかく、今は異なる。そもそも三人全員に殴られれば、理論上60点はないと足りていないので、ゲーム展開によっては、初期ライフは少ないともいえる。もちろん、タッサの神託者で早々にゲームが終了してしまうことがあるが、経験的にライフが問題になるゲームは、しばしば存在する。
ライフが減った時に困るのは、防御的な行動をとらないといけなくなること、すなわちコンボが遠のくということ。
もしも、ライフが無限にあれば、場に出て仕事済みの森林の怒声吠えなど無視である。だが、ライフが10点しかなかったら?焦って通る見込みの少ないコンボを仕掛けるか、悪魔の教示者で除去を持ってきて処理しないといけない。
ある程度ダメージが累積することが前提だが、アタックの目的の一つはそのプレイヤーのコンボを遅らせる可能性があること。攻撃対象に選ぶべきは、勝利に最も近い人である。ここまでは単純な話だが、アタックはある特定の1ターンだけの考察ではなく、今後数ターンに渡って計画的に行わないといけない行動である。だからもっと複雑になる。難しい。
・展開してマナが沢山伸びた緑単
・3マナくらいしかない青黒
どちらから叩くのかは、これだけの情報では語れない。緑単は放っておけば手に負えないボードと手札になって、そのまま押し切ってしまうかもしれないが、誰かがリセットなりピンポイントで妨害をすることで手詰まりになる可能性が高い。そうなると2-3ターン後には手札から軽いコンボを叩きつける青黒こそが、真に勝利に近い人となるが、先に青黒デッキから殴り始めると、本来緑単に使うはずだった除去を自分に使われてしまうかもしれない(そして緑単が盤石となってしまうかもしれない)。これは色やこれまでの展開から相手のデッキ構造やコンボへの道筋、現在の手札を予測しながら戦わないといけないため、かなりの経験と勘が必要で初心者向けではないし、予測できる範囲にも限界があるので、決め打ちの運ゲーになりがち。
個人的に思うこととして、常に及第点以上を取るための無難な選択肢は、全員を均等に殴る意志をアピールすること。先の展開は見えない手札や引きに影響されて完全に予測することは不可能なので、無難な行動でお茶を濁す。あまり誰かに偏ってアタックをするとその人から除去を引き出すことになるが、対戦相手に順番に殴れば、まあ1-2回くらいならいいかと見逃してもらいやすい。除去は出来る限り温存したいというのは、勝ちたいプレイヤーには共通の心理であり、そこに乗っかるのである。
色々話した上で言うのも変な話だが、攻撃先に関しては明確な推奨や根拠もないので、正直な話、サイコロで決めても良いと思う。それくらい難しいというか決められないし、特定の誰かを追い詰めすぎない方が良い。
10.最後に
EDHではデッキによる動かし方、勝利への近さなどが、多様すぎる。デッキリストだけでは到底理解できないし、妨害の刺しどころなんてものは本当に難しい。毎回すぐに即死コンボを決めているように見えるデッキでも、いざ自分で動かしてみると案外揃わなかったりもする。EDHというゲームはデッキ構築の多様性だけでなく、多人数特有の戦術や駆け引きも面白く、とにかく飽きさせない。強いカードを使えば良いという単純な思考でもないので、あえて相手に狙われないように強さを抑えたカードを使うという点も他のフォーマットにはない特徴で奥深い。
現状自分は
・デッキの完成度
・多人数戦特有の妨害のやり取り
・妨害のやり取りを意識したカードの選定
・(自分を含めて)プレイヤーは盤面に注視しがち
といったところに重きを置いているが、別の点を重視しても良い。
今回は取りあげていないが、デッキの安定性も議論の対象となる。4人対戦ならば勝率25%以上が目標となるので、逆に言えば7割くらいは負けてもいい。実は1:1のフォーマットよりも低い目標となる。下手に安定度を上げるよりも、不安定でも噛み合ったときの破壊力が圧倒的に強い構築の方が、押し切れる可能性もある。かみ合わなかったときは捨てるという覚悟で…
また結果的に無駄なカードが増えるとしても手の込んだ戦術もありかもしれない。例えばタッサの神託者とDemonic Consultationのコンボは、普通カードの対処のしやすさから、タッサの神託者を唱えて場に出た後、能力の誘発に対応して、Demonic Consultationを唱える。もしもこれを、Demonic Consultationから唱えたら?苦し紛れのサーチか、実はコンボかは相手にとっては判断できない。続くタッサの神託者を打ち消せばよいと油断してDemonic Consultationを通した相手に対して、ライブラリーを全部飛ばした後で魂の洞窟セットからタッサの神託者はカウンターを疑似的に回避できる可能性がある。戦術に関しては奇襲性が高いというのは、それだけで多人数からの妨害を受けにくくなるので、ネタが割れない限り有能。結局展開が必須ではなくて手札でコンボを揃えるデッキは、潜在的に奇襲を意識しているわけだし。
勝利を目的として記事を書いてみたが、EDHの戦術についてはまだまだ発展途上なので自分の考察に対する否定的な意見も出てくるだろう。少しパワーが落ちたデッキでも、相対的に妨害を受けないことによるアドバンテージで巻き返せるチャンスがあり、実際無視され続けた“少し弱い”デッキが勝つこともある。最低限の骨格さえ間違ってなければ、何もできずに終わることは少ないはずである。その最低限の参考にしてもらうことがこの文章の狙いであり、実際に誰かの参考になれば幸いである。
というわけで今回の話はおしまい。かなりの長文となったが、最後まで読んでくださった方、お疲れ様でした。意見などあればコメントにお願いします。
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